配達員「荷物届けたとき『ご苦労さま』って言われるのイラッとくる」

青空文庫の幕末から1950年代までに労い表現として現れた数は，「お疲れ系」をはるかに上回るものであり，「ご苦労系」が代表的労い言葉であったことがわかる。
しかし，誰に対して発したかで分析してみると，大正期頃，目上への使用例数と目下（部下）への使用例数が逆転し，その後，時20代を経るに従いその差が開き続けている。
この目下への使用というタイプのものは，明治時代以前には女性や一般的な町人の使用が多かったのに対し，
大正以降では，軍人・警官が増えている。さらに通俗的時代小説にも大いに使われている。

このことから，実際の軍隊での労い言葉「御苦労」が，徴兵男子を通じて国内に広まり，さらにそれが時代小説で多用されたことが，
「もともと主君からの労いの言葉」という誤解の原因になったのではないか。

最も一般的な労いの言葉は，上下関係の厳しい組織，例えば会社組織の中で，目上には使えないという神話が語り継がれ，現在に至ったのではないだろうか。
本来なら広い用途で使えるはずの「ご苦労系」は，現在，「目上が使う」という制限枠をはめられ，
「お疲れ系」の便利さ，親しみやすさからの勢力拡大もあって，労いの言葉の代表の座を追われ，使用頻度を減らしてしまったと考えられる。