れんげ「なんなのん?」
夏海「そしたら点火しまーす♪」シュボ
ボウッ!
れんげ「す、すごいのん!なっつん魔法使いみたいなのん!」
夏海「えっへっへ…面白いっしょ?れんちょんもやってみる?」
れんげ「あ、危なそうだからウチはいいのん…」
夏海「大丈夫だって。火傷なんかしないからさ」
れんげ「あ、熱くないのん…?」
夏海「げっ…母ちゃん…なんだよぅ、なんも危なくねえって」
雪子「れんげちゃんに変な事教えないの!あんたがバカな事すると小さい子も真似するでしょうが!」
夏海「ちぇ…うっさいなぁ…」
雪子「そうやってあんたは人の話を聞かないで…」
雪子「いい?あんたがいらん事して大怪我するのは勝手だけど、れんげちゃんに火傷でもさせたら母さん許さんからね」
夏海「へいへい。わっかりましたよ~っと」
雪子「はぁ…とにかくライターは出しんさい。それ父ちゃんのでしょうが」
夏海「わかったってば!ほらこれでいいんでしょ!いこっ、れんちょん」グイッ
れんげ「あっ…」
れんげ「…なっつん、おばちゃんの言う事はもう少しちゃんと聞いた方がいいと思うのん」
夏海「れんちょんまでそんな事…あ、父ちゃんの軽トラ停まってる…そういや今日は畑出るって言ってたもんなぁ」
夏海「そうだれんちょん、外いるのも寒いし車の中で暖房かけてラジオでも聞こうか」
れんげ「ぐっどあいでぃあなのん」
夏海(田舎の車は無施錠、キー挿しっぱがあたり前♪)カチ…ブオオン
夏海「はぁ~あったけ~」
れんげ「ラジオ!ラジオ聞くのん!」
夏海「おっけ~」カチャ
チャラララーチャララーラララー♪
れんげ「グレートマンのテーマなのん!」ワクワク
夏海(はぁ…退屈……)
れんげ「ぐれーとにぃー♪あくをうつぅー♪」
夏海「お、またライター発見」
れんげ「はっ!?」
れんげ「なっつん!それもうやめるん!」
夏海「だから危なくないんだってば。心配性だなぁれんちょんは」シュゥゥゥ
れんげ「おばちゃんに叱られるん…」
夏海「へーきへーき」シュボ…ボウッ!
芋虫ゆうたやめろ
夏海「~♪」
れんげ「……今日はもう帰るん」ガチャ…バタン!
夏海「あ!ちょっとれんちょーん!」
夏海「はぁ…ほんと田舎ってつまんねー…いいじゃんか、これくらいの暇潰し…」
シュゥゥゥ…シュボ…ボウッ!
シュゥゥゥ…シュボ…ボウッ!
シュゥゥゥ…シュボ…ボウッ!
シュゥゥゥゥゥゥゥゥ……
車内にいた同村の中学一年の女子生徒が全身に重度の火傷を負いました。
○○署の調べでは軽トラックの所有者は女子生徒の父親であり、爆発直前に分かれた友人の証言によると
女子生徒は握り拳のなかにライターのガスを充満させて掌のうえで点火する遊びを繰り返していた、とのことで
同署は車内に充満したガスにライターの火が引火した疑いが強いとして、調べを進めています。
また、重症を負った女子生徒ですが、現場近辺には高度な治療を行える医療施設がなく
およそ40km離れた○○市内の総合病院に搬送されましたが、事故発生から搬入までにかなりの時間が掛かってしまったこともあり
容態についてはいまだ予断を許されない状態だ、とのことです。
小鞠「お、お母さん…大丈夫だよ。あの夏海のことだもん。そう簡単に…」
卓「……」
『手術中』のランプが消える
雪子「先生!娘は!?夏海は…!?」
医師「……」
医師「…とても生命力の強い娘さんですね」
雪子「それじゃ夏海は…!」
医師「なんとか一命はとりとめました。呼吸も安定しています。じきに意識も戻るでしょう」
雪子「あああ!夏海ぃ…!」ヘタリ
小鞠「よかった…よかったよぉ…びえええん!びえええん!」
卓「……」
医師「…お母さん、どうかお心をしっかり持ってください」
雪子「…はい?」
バタン…
キィ…キィ…ガラガラガラ……
小鞠「夏海っ!あんたはもう…心配ばっかりかけてっ」タタタ…
小鞠「ひいっ!?」ビクッ
卓「…!?」
雪子「母さんもう、うるさいこと言わないから…あんたが無事だっただけでもう……」
夏海「……」シュコー…シュコー…
雪子「いっ…」
雪子「いやああああああああっ!!!」
れんげ「なっつん、もう会っても大丈夫になったんな!」
一穂「…うん。ちゃんとお話もできるようになったみたい」
れんげ「ずっとなっつんと遊べなくて寂しかったん」
れんげ「それにこの前ウチ、勝手に帰っちゃったからちゃんとゴメンなさいしたいのん」
一穂「そっか…」
れんげ「仲直りになっつんの好きなお菓子いっぱい買ってきたん!」
れんげ「なっつんのお見舞いって言ったら駄菓子屋がたくさんおまけしてくれたのん」
れんげ「はっ!ウチったら…病院ではお口にチャック、するのんな?」
一穂「……れんちょん」
一穂「本当の友達っていうのはね、例え相手がどんな姿に変わっても仲良くできるものなんだよ」
れんげ「…ねえねえ、何言ってるのん?」
一穂「…あの子と変わらず接してあげてね」
れんげ「?」
雪子「無茶いわんの。その身体でどうやって…」
夏海「……」
雪子「…ご、ごめんなさい。じゃあひとまずやってみようか。それでダメだったら母さん手を貸すから」
夏海「必要ない…もう帰れよ…」
雪子「ダメよ…あんたがベッドから落ちそうになったら、母さん絶対受け止めるんだから…」
夏海「そういうのやめてよ…うざいんだよおっ…!」
夏海「ああああああああああああああっ!!」バタバタ
夏海「ははっ…そっか。そりゃ困るよねぇ…母ちゃ…あんたが心配なのは結局そういうことなんだよ…」
雪子「…どういう意味よ」
夏海「いろんな人が見に来たら恥ずかしいよねぇ?イモムシみたいな娘の姿…あはははは!」
ぱちぃん!
夏海「」
雪子「う、ううっ…なんで…あんたはっ…」
夏海「…おいおい、障害者虐待かよ。サイテーだな」
雪子「違うっ!あんたは障害者なんかじゃない…障害者なんかじゃない…!」ギュ
雪子「夏海は夏海のまま…元気で可愛い女の子のまま…なにも変わってないもの…!」ギュウウ
夏海「…さすがに無理があんでしょそれは」
雪子「お願い…そうやってすぐ卑屈になるのやめてちょうだい。母さんそんな夏海見てるのすごく悲しい」
夏海「…もういい。寝る」ゴロッ
雪子「寝るって…さっきお昼食べたばかりじゃない」
夏海「起きてたところでなにが出来るっていうのさ…こんな身体で…」
雪子「夏海…」
夏海「はあっ!?なんだよそれ…聞いてないしっ!」
雪子「そうやってブーたれてたら、れんげちゃんに笑われるねぇ」
夏海「…なんでだよっ!誰にも会わないって言ったじゃん!」
雪子「そうやって自分の殻に閉じこもるの、よくないって先生も言ってたよ」
夏海「なんで…そんな勝手な事すんのさぁ…」ポロポロ
雪子「ごめん…でもこのままだと絶対いけないと思ったから…」
夏海「いけないって何がだよ…」ポロポロ
雪子「あんたはいいん?このまま誰とも会わないなんて…」
夏海「いいも悪いもないじゃん…ウチの人生なんて、もう終わってんだし…」
雪子「そんな事ない…大丈夫だから…」
雪子「……」
夏海「こんな酷い姿…友達に見せられるわけない……!」
雪子「わかるよ…夏海だって女の子だもん…辛いよね…」
夏海「そう思うならウチを誰の目にも触れさせないようにしてよ!」
雪子「いい、聞きなさい夏海。初めのうちは辛いかもしれんけど…」
夏海「うるさいなぁ!れんちょん達来ちゃうじゃん!はやく屋上にでも連れてってよっ!」
雪子「…ダメ。ここにいなさい」
夏海「連れてけええええええ!!!」バタバタ
夏海「はぁ…はあっ…」ポロポロ
夏海「…ろし…やる…」ポロポロ
雪子「ん?どうしたの、夏海…」
コ ロ シ テ ヤ ル……!
雪子「……」
雪子「…夏海、あんたは強い子ねぇ」
夏海「…は?」
雪子「そんなに力強く母さんの事にらみ付けられるなら、もう心配いらんねぇ」
夏海「…っ!」
夏海「あああああああああああああああっ!!!」
あああああああああああああああっ!!!
れんげ「なっつん?」
れんげ「なっつんの声がしたん」タタタ…
一穂「あ!待ちなさ……」
れんげ「なっつんどーしたん!まだ火傷が痛むん!?」キキーッ
夏海「あ…」
雪子「れんげちゃん…」
れんげ「……」
れんげ「……」
夏海「あはははっ!見てよれんちょん!このみっともない姿!」
夏海「いやぁ、さすがのウチもこうなっては手も足も出ない!あ、もとから出ないか!なーんちゃって!」
夏海「あははは…は…」
れんげ「……」
れんげ「あの…ウチ、病室を間違えたみたい…」
夏海「」
はよ
れんげ「ねえねえ…」
れんげ「本当に…なっつんなん…?」
夏海「あ、あは…イメチェンにしてはやり過ぎたかなー、なんて…」
雪子「……」
一穂「ほぉら、もっと傍に行ってお話したらいいじゃない」
れんげ「こ、ここでいいん!」ビクッ
夏海「…っ!」
一穂「……」
雪子「……」
れんげ「え…ええっと…」
夏海「あ、あのさっ…れんちょん…」
れんげ「う、ウチもう帰るん!」タタタ…
一穂「あぁ!あの子ったら…ごめんなさい!すぐに連れて戻るから」ペコ
れんげ「ぐすっ…ぐすっ…」トボトボ
れんげ「うっ…ぐすん…」
一穂「…まぁ、なにも教えてなかったねえねえも悪かったよねぇ。びっくりしちゃうのも仕方ないか」
れんげ「あんなのなっつんじゃないん…」
一穂「……あの事故で夏海が負った火傷は深刻でね、感染症を起こすといけないから手と足は切断するしかなかったんだって」
れんげ「そんな恐い話聞きたくないのん!」
一穂「あぁ…ごめんごめん。でもねれんちょん、さっき会ったのは間違いなくなっつんなんだよ?」
一穂「いつもれんちょんと遊んでくれて、れんちょんが大好きなあのなっつんなの」
一穂「ね、戻って一緒にお話ししてあげよう?」
れんげ「ごめんなさい…ウチ、やっぱり行きたくないん…すごく…恐かったん…」
一穂「…そっか」
れんげ「ウチ、ひどい子なんな…」うるっ
一穂「そんな事ないよー。れんちょんは夏海の事が大好きだからそんなに悲しんでるんだもんね」ナデナデ
れんげ「ううっ…ぐすっ…ぐすん…」
一穂「それじゃあもう少しここで待っててね。ねえねえはおばちゃんとお話してくるから」
れんげ「ごめんなさい…ごめんなさい…」ポロポロ
一穂(さすがに受け入れられなかったか…)
れんげ「ねえねえ、これ…」
一穂「ん?」
れんげ「お菓子、なっつんに渡してあげて欲しいのん」
一穂「…はいよ。なっつんも喜ぶよ、きっと」
雪子「ううん…ええんよかずちゃん。こっちこそあんな小さい子にショックな思いさせて悪かったねぇ」
一穂「…夏海はどうしてる?」
雪子「うん…すっかり落ち込んでしまって…うっ…うううっ…」
一穂「本当にごめんなさい…ウチが浅はかだったんよ…」
雪子「ちがう…責めてるわけじゃないんよ…ただあの子、れんげちゃんの前では普段通り振る舞おうとして…」ポロポロ
雪子「きっとあの子なりに…妹分の前ではしっかりしないとっていうのがあったんよねぇ…」ポロポロ
雪子「かずちゃん、無理な事頼めないのはわかってる…だけど、いま夏海の心を開くことが出来るのは母親の私じゃなくて友達の存在だと思うから…」
一穂「…うん。わかってる」
雪子「もうすぐあの子も退院だから、また家に遊びに来てくれると嬉しいんだけど…」
一穂「大丈夫だよ雪子さん。時間はかかるかもしれないけど、れんげならきっと全部受け入れて夏海と付き合っていける」
一穂「だって夏海はあの子の一番の親友なんだもん…」
一穂「はい今日も一日お疲れ様。みんな気をつけて帰ってくださーい」
蛍「そうですか。夏海先輩やっと退院できたんですね!」
小鞠「うん。みんなには心配かけちゃったけどね。ひとまずは落ち着いた感じかな」
蛍「よかったぁ…夏海先輩、学校にはいつ頃復帰できそうなんですか?」
小鞠「う、うん…どうだろ…もう少し様子をみて、かな…」
蛍「でしたら今度先輩のお家にお見舞いに行ってもいいですか?」
蛍「はい!」
蛍「あっ…ごめんなさい。今日は街に出るからママが早く帰ってきなさいって…」
小鞠「あ、あぁ…そう、なんだ…」シュン
蛍「あっ、あのっ!本当なんです…!言い訳とかじゃなくてその…」アセアセ
小鞠「うん、分かってるよ。蛍がそんな嘘つくわけないもんね」にこっ
小鞠「こっちこそゴメンね。蛍の都合も聞かずに勝手に決めちゃって」
蛍「…今度、必ずうかがいますから。お先に失礼します」ペコリ
小鞠「あ、そうだ。れんげはどうせ暇でしょ?」
れんげ「はうっ!」ビクッ
小鞠「帰り寄ってきなよ」
れんげ「う、ウチ裏山で遊んでくん!」ガタッ!タタタ…
小鞠「あ……」
卓「……」
小鞠「はぁ……」
小鞠(ダメダメ、暗い顔してちゃ!)ペチペチ
小鞠「ただいまあーっ♪」ガラッ
シ──ン…
小鞠「…夏海、入るよ?」コンコン
夏海「……」
小鞠「なんだ、起きてるならお帰りくらい言ってよ。お母さんは?」
夏海「…コープ」
小鞠「そっか。今日はなにしてたの?」
夏海「別に…ずっとテレビ見てた…」ゴロン
夏海「…ぜんぜん」
小鞠「で、でもいいよねぇ夏海!部屋に自分用のテレビ置いてもらえてさ!羨ましいよ」
夏海「……はぁ」
夏海「ウチは自由に動かせる手足の方が羨ましいよ」
小鞠「」
小鞠「れんげ、も…」
夏海「だったらなんで誰も見舞いにこないんだろうねぇ…」
小鞠「み、みんな自分の用事があるんだってば。蛍は近いうち来てくれるんだって」
夏海「ふぅん…まぁ、来なくていいけど」
小鞠「な、なんてこと言うのさ…久し振りに友達とお喋りしたくないの?」
夏海「ウチにはもう友達なんていない」
小鞠「…っ!」
小鞠「そうやって誰とも会わずに自分の部屋に閉じこもってて何がわかるっていうのよ!」
小鞠「あんたはいつもそう!人の忠告聞かないで自分のしたいようにしかしない…!」
小鞠「今回のことだって、あんたがお母さんの言う事…ちゃんと聞いてれば…!!」じわっ
夏海「……」
夏海「わかってるよ、そんなの…」
小鞠「あぅ…ご、ごめん……」ゴシゴシ
夏海「…自分の足で歩かないんだから散歩じゃないじゃん」
小鞠「じゃ、じゃあなんて言えばいいのよ。いちおう車椅子だからドライブ…?になるのかな」
夏海「ふっ…」
夏海「変なとこ真面目だよなぁ姉ちゃんは。そんなこと適当に聞き流せばいいのにさ」
小鞠「う、うっさい///」
夏海「…いいよ。連れてってよ、散歩。久し振りに外の風に当たりたいしさ」
小鞠「夏海…!」ぱあぁ
小鞠「わ、わかった!準備してくるから待っててね!」イソイソ
夏海「まぁ、一度ウチを連れて出てみれば姉ちゃんも懲りるだろうさ…」ボソッ
小鞠「~♪」
小鞠「夏海、寒くない?」
夏海「あぁ、平気…」
小鞠「いい天気だねぇ♪」
夏海「それさっきも聞いたよ…」
小鞠「そだっけ?えへへへ♪」
村人A「それで佐藤さんの奥さんにゴミ捨て場の掃除頼んだのに次の日見たら水だけまいて…あら!」
村人B「まったくあそこのお宅は夫婦そろって…なに?」
村人A「まぁまぁまぁ!夏海ちゃん!」ドタドタドタ
村人B「聞いたわよぉ!大変だったんですってねぇ!」バタバタバタ
夏海「どーも…ご心配おかけしまして」
村人A「あらまぁ可哀そうに…若い娘さんがこんな痛々しい…」
村人B「そんな風に言うのはよくないんとちがうん?なぁ夏海ちゃん、困ったことあったらオバちゃんらみんなで支えるからなぁ」
村人A「そうやねぇ。この村の子供はみんなの子供同然やもんな。夏海ちゃんも気ぃ落とさんようになぁ」
夏海「うん。オバちゃんたちには前以上に迷惑かけちゃうかもね」ニシシ
村人A「なーに言ってるの!相変わらず愉快な子やわぁこの子はw」
村人B「まぁでも思ったより元気そうでよかったわ。みんな心配しとったんよぉ」
小鞠「…あ、それじゃあ私たち散歩の続きしてきますので」
村人A「はぁい。気ぃつけてなぁ」
村人B「二人とも風邪ひかんように」
夏海「ありがとう。ばいばーい」
小鞠「~♪」
小鞠「ね、みんな優しくしてくれるでしょ?夏海が悪いふうに考えすぎなんだって」
夏海「…なぁ姉ちゃん、なんでさっき優しくされたのかな?」
小鞠「へ?」
夏海「だってウチら、ただ散歩してただけじゃん。それだけでなんで優しくされる必要があるのかな?」
小鞠「それは…」
夏海「結局いまのウチってそうやって優しく扱わないとダメになるコワレ物みたいに思われてるって事なのかな…」
小鞠「そんな…オバちゃんたち、本気で夏海のこと想ってくれてたんだよ?」
小鞠「あんた、人の気持ちまで分からなくなっちゃったの…?」
夏海「……」
夏海「心配なんかされたくないし、優しくもしていらない。前みたいにオバちゃん家のガラス割って叱られる方がずっといい…」
夏海「そうだなぁ…」
夏海「だったらあそこの山に連れてってよ。よくみんなで遊んだじゃん」クイッ
小鞠「え、今から?でもだいぶ陽もかたむいてるし…」
夏海「…そっか、じゃあいいよ」
小鞠「う、ううん!大丈夫!私が散歩に誘ったんだもん!夏海が行きたいところ、どこでも連れてってあげるから」
小鞠「はぁ…はぁ…着いたよ夏海…もうすぐ暗くなりそうだけど、夕焼けに照らされる山って綺麗だね…」
夏海「え、ここまで?ウチ山の中まで入ってみたかったんだけどなぁ」
小鞠「え…でも急な坂道だし…車椅子じゃちょっと…」
夏海「……」
小鞠「わ、わかった!少し中のほうへ入ってみよっか!」
小鞠「ふぎぎぎ…ふんぬううっ…」
夏海「おいおい、小さいのにあんま無理しなさんな姉ちゃん」
小鞠「ち、ちいさいゆーなあ…!」
ギギギィ…ゴロ…ゴロ…
小鞠「はぁ…はぁ…どう、夏海…道があるギリギリのところまで来たよ…」
小鞠「あはは…でもまわり真っ暗で何も見えなくなっちゃった。ごめんね」
夏海「え、ここで終わり?ウチ頂上まで行きたかったんだけどなぁ」
小鞠「はぁ…はぁ…えっ?でも…」
夏海「車椅子が無理なら、ウチをおぶって頂上まで登ってよ。ウチが行きたいとこならどこでも連れてってくれるんでしょ?」
小鞠「……」
夏海「ちょっと姉ちゃん!なにしてんのさ!?」
小鞠「ふぎぎ…落ちないように気をつけてね…」ヨタヨタ
夏海「おい、やめてよ!降ろせって!」
小鞠「お姉ちゃんが…連れてったげるから…」ヨタヨタ
夏海「やめて…やめてってば!姉ちゃんの力で出来るわけないじゃん!」
小鞠「はぁ…はぁ…これくらい何ともない…前に家出した時だってお腹壊したあんたおぶって家まで帰ったんだから…」
夏海「ウチが…悪かったからさ…お願いだから降ろしてよぉ…」ポロポロ
小鞠「今日はごめんね夏海。今度からお兄ちゃんにもついてきて貰おう?私も体力つけるしさ」
夏海「……謝んないでよ」
小鞠「私が夏海の自由な手足になるからさ。ずっと傍にいたげるから」
夏海「そういうの…やめてよ…」
夏海「もうほっといてよ…ウチのことなんかさ…」
小鞠「ほっとけるわけないじゃん。あんたは私の可愛い妹なんだから」
夏海「…ははっ。そんなこと言ってくれるなんて珍しいじゃん」
小鞠「まぁ、こんな時じゃないと恥ずかしくて言えないからね///」
夏海「ウチなんかにかまってると姉ちゃんの人生までダメにしちゃう。そんな事になったらウチだって嫌だし…」
小鞠「なにらしくないこと言ってるのよ。今までだって散々私のこと振り回してたくせに」
小鞠「いい?私はあんたより一年お姉さんに生まれたんだから。いくら身長越されたって夏海はいつまで経っても私の妹なの」
小鞠「それだけでいくら面倒かけられたって不思議と悪い気はしないものなんだよ?」
夏海「……ぐすっ」
夏海「だけど…ウチみたいなコブが付いてたら姉ちゃんの嫁の貰い手がなくなるかも、とか考えちゃって…」ポロポロ
小鞠「あははっ!そんな事まで心配してくれなくていいってば。でもまぁその気持ちがあるならさ…」
小鞠「もう少しみんなに心を開いてみてよ。辛いのはわかるけど、お母さんに当たったりするのもなしにしてさ」
夏海「うん、わかったよ…今までゴメン…」
小鞠「よし!甘えてばっかりは許さないぞっ!」
夏海「あ、甘えてねーしっ」
なっつん😭
小鞠「あはは!速い速い♪」
夏海「ちょ…そんな押すなよ姉ちゃん!落ちるってば!」
小鞠「だってもう夜だよ?お母さん心配するから早く帰らないと」
小鞠「それにしても今日は久しぶりに夏海とお出かけできて楽しかったなぁ」
夏海「うん…そだね、ウチも楽しかったよ…」
小鞠「これからはなるべく表に出るようにしてさ、慣れてきたらまた一緒に学校行こうよ。ね?」
夏海「……」
夏海「うん、考えとくよ…」
蛍「そうですか…それじゃあこれ、クッキー焼いてみたんですけど夏海先輩に渡しておいてもらえますか」
雪子「本当にごめんなさい…何度も足を運んでもらってるのに…」
蛍「いえ、また来ますから。それじゃあ…」ペコッ
蛍「はぁ……」トボトボ
小鞠「おーい!ほたるうーっ!」タタタ…
蛍「あ…先輩……」
蛍「いいんですそんな…夏海先輩の気持ちもよくわかりますから…」
小鞠「この間二人で散歩に出てさ、その時はあの子も笑顔見せたりして、すこし安心してたんだけどねぇ…やっぱそう単純なものじゃないみたい」
小鞠「あの日以来かえって塞ぎがちになっちゃったっていうか…感情を表に出さなくなったぶん無理してるっていうか…」
蛍「無理、ですか…」
小鞠「私が悪いんだ…まわりに当たり散らすのやめろとか甘えるなとか、偉そうなこと言っちゃった」
小鞠「夏海の辛さは独りで抱えきれるようなものじゃないってわかってるのに…プレッシャーになるような事言って、馬鹿な姉だよ…」
蛍「そんな…先輩はなにも悪くないじゃないですか」
小鞠「そうかなぁ…つくづく自分はお子様だって嫌になるよ。かず姉やこのみちゃんみたいに聞き上手にもなれないし…」
蛍「えっ…夏海先輩、先生やこのみさんとは会われてるんですか?」
小鞠「え、うん…そうだけど」
小鞠「ああ!ちがうちがう!そうじゃなくてほら、夏海も年上のほうが弱味見せられるぶん話しやすいっていうのがあるみたいでさ」
蛍「そうでしたか…」
小鞠「夏海も蛍やれんげに対してはまだカッコイイ先輩してたいんだよ。わかってあげてね」
蛍「はい。でもまたいつか、四人で集まって遊べるようになりたいですね」
小鞠「うん。そうなればいいよね…」
蛍「……」
小鞠「……」
小鞠「はは…う~ん…私から声はかけてるんだけどね、どうも避けられちゃってるみたいで…」
蛍「れんちゃんもこんな事があってすごく辛いんだと思います。夏海先輩には本当によく懐いていましたもんね…」
小鞠「なんか…あの事故から色々変わっちゃったよね…みんながギスギスしちゃってさ」
蛍「なに言ってるんですか!必ずもとに戻ります!またみんなで笑いあえますよ!」
蛍「ぜったい、また四人で遊びに行きましょうね。私まだ教えてもらってない場所いっぱいあるんですから」
小鞠「うん…みんなで色んなとこ行こうね…ありがとう、蛍…」ポロポロ
なんやかんやで手足が生えてきてハッピーエンド
れんげ「駄菓子屋が一人で寂しいだろうからウチが遊びにきてあげてるん。感謝するん」
楓「ああそーかい。でも私にはれんげの方が寂しがってるように見えるんだけどな」
れんげ「そ、そんな事ないのん!」
楓「ま、子供は子供どうしで遊ぶことだな。大人は忙しいんだ」
れんげ「暇そうにしてるん」
楓「暇じゃねーよ!とにかくここはお前の遊び場じゃないんだから…」
れんげ「……」うるうる
楓「あぁ悪い…言い過ぎた…本当にれんげが邪魔なわけじゃなくてその…お前のためを思ってだな…」アセアセ
れんげ「ひっく…だってウチ、どうしたらいいかわからないのん…」
楓「…夏海のことだろ?」
れんげ「ひっく…」コクン
楓「あぁ…私もこないだ見舞い行ってきたけど…ありゃ確かにショックだわな…」
れんげ「なっつんに会ってきたん…?」
楓「ああ。すっかりしょぼくれて得意の憎まれ口も叩かねーでさ。あいつ大人しくしてるとけっこう可愛いのな」ニシシ
れんげ「なっつん、元気ないん…?」
楓「まぁな…でもれんげが見舞いに行ってやったら元気出るんじゃねーの?」
れんげ「だけど…ウチ…」
楓「夏海のこと、嫌いになったのか?」
れんげ「そんなわけないん!」
れんげ「だけど…今のなっつんは…」
れんげ「駄菓子屋もみんなと一緒のこと言うん?なっつんはなっつんのままだって…」
楓「……」
れんげ「だけど、ウチが好きだったなっつんは、きっと何処かに行ってしまったん…ウチはそう思うん…」
楓「……」
楓「私もまぁ、高校の頃はヤンチャしててさ、暴走族つーかレディースつーか、思い出すのも恥ずかしいんだけどそれの真似事してた時期もあってさ」
れんげ「…?」
楓「仲間はみんな免許も持たずにバイク転がすもんだから、やたら事故る奴が多くてさ…」
楓「トラックと正面衝突して腰から下半分捨てるしかなかった奴…ノーヘルでアスファルトに顔から突っ込んで顔の肉がえぐれちまった奴…色々いたよ」
れんげ「はぅ…」ブルブル
楓「おっと…まぁ私は一穂先輩が本気で叱ってくれたおかげでこうして立ち直れたわけだが…」
楓「私も結局そいつらの見舞いにはどうしても行けなかったなぁ…」
楓「なんつーか…お互い合わせる顔がなかったって言うのか…私らみたいな馬鹿でもそういう事があると変に気をまわしちまうんだよ」
楓「向こうだって自分の惨めな姿なんか見られたくねーだろうし、変な話だけど自分が五体満足でいることすら後ろめたく思えてさ…」
楓「誓ってあいつらを見下してたわけじゃねーけど、どうしても住む世界が違ってしまったって思いは消えなかったなぁ…」
れんげ「その人たち、どうなったん…?」
楓「…怪我が原因で死んじまった奴もいたし、飛び降り自殺した奴もいたな」
れんげ「なっつんが…死んじゃったら…」じわっ
楓「泣くな泣くな。あいつは殺したって死にそうにねーだろ」ナデナデ
楓「…手や足がないのが、怖かったか」
れんげ「それもあるん…だけどもっと…なんていうか…すごく大事なものが、もう戻ってこない気がしたん…」
れんげ「う…うううっ…うわあああああん!」
楓「よしよし。れんげはいい子だな…その気持ちはすげーわかるから…」
れんげ「う…ううっ…ぐすん…」
楓「だけどなれんげ、夏海はまだしっかり生きてたぞ。私もあいつの見舞いに行ってみて思ったよ。今まで通りには付き合っていけないだろうなって」
楓「でもさ、友達が生きてるってそれだけで嬉しいもんだぞ?いいじゃん上手く付き合えなくなったとしても。生きてればいつだって会えるんだし」
楓「…夏海に会いに行ってやれよ。なっ?」
れんげ「う…ううっ…」コクン
楓「お前らの間でそんな面倒なこと気にしなくていいんじゃねーの?」
れんげ「だけどウチ…」
楓「だけどウチ、か…しゃーない。仲直りのきっかけ、教えて欲しいか?」
れんげ「教えて欲しいん!」
楓「よっしゃ!じゃあ超簡単なクイズ!」
楓「1月24日は何の日だ?」
卓「……」キニスンナ
夏海「あはは…実は嬉しかったり?兄ちゃんスケベだなぁ」
卓「……」
夏海「なわけないよね…ゴメン…こんな身体もう、男も女もないもんね…」
卓「……」ヨシヨシ
夏海「あっ…」
夏海「兄ちゃん///」
夏海「ん、なに手紙?ポストに直接入ってたんだ…誰から?」
卓「……」
夏海「まぁいいか。兄ちゃん読んで聞かせてよ」
卓「……」
夏海「冗談だって。そんな困った顔しないでよ…自分で読むからそこ置いて」
なっつんへ
夏海「れんちょんの字だ…」
1しゅうかんごの1がつ24にち なっつんのおたんじょうびかいと
ウチらのなかなおりかいをしたいとおもいます。
かいじょうはなっつんのいえです。
たのしいかいになるようにみんなでじゅんびちゅうです。
おいしいものもたくさんよういします。
だがしやのもってくるおかしとか、がっこうでつくったやさいとかです。
ぜったいさんかしないといけません。やぶったらばつゲームします。
それからなっつん、ずっとしらんぷりしちゃってごめんなさい。
またウチとあそんでね。なっつんだいすき。
れんげより
自分涙いいすか
夏海「な、なになにぃ…誕生日会とかしてくれるんだ…ウチのためにわざわざ…」
卓「……」
夏海「ありがとう…すげーうれしいよ…」
夏海「だけど…聞いてよ兄ちゃん…ウチさ…」
卓「……?」
夏海「ウチ、最近まわりにどんどん置いてかれてる気がするんだ…」
夏海「今だってウチはこの身体が嫌で嫌で仕方ないのに…みんなはもう、今のウチを受け入れるように気持ちを切り替えていってる…」
卓「……」
夏海「ちょっと…待ってよって……!」ポロポロ
卓「……」
夏海「夢の中でもさ、ウチは前みたいに自分の足で自由に野山を駆け回ってるんだ。途中で夢だと気付いても、どうかこのまま覚めないでって…」
卓「……」
夏海「この前もね、静まり返った家の中で独りでボーっと天井眺めてたらさ…」
夏海「この命を終わりにすれば、また新しい夏海ちゃんの人生がやりなおせるかも、なんて考えが浮かんで…」
夏海「ドラマであるじゃん?舌噛み切るって。あれやろうとしてみたんだけど、できなかった。噛む筋肉も火傷でやられてるみたいでさ…」
卓「……」
夏海「ねぇ兄ちゃん…ウチを助けてよ…!このままなんて絶対やだ…!あの日の朝に戻りたい…!」
卓「……」
夏海「兄ちゃん…ウチ辛い…辛いよ…!」
夏海「うわああああああああ!!」
卓「……」
小鞠「わっ!上手だね…やっぱり縫い物は蛍に任せて正解だったよ」
蛍「それほどでも///」
れんげ「ウチはなっつんのためにクッション作ったん!」
小鞠「わーすごい…それはえっと、例の狸だよね…?」
れんげ「…いま流行りの『おさわり探偵なめこ』なのん」ムカッ
小鞠「あ、ああ…そっか!だと思った。夏海それ好きだもんね!」
蛍「ふふっ…なんだか久し振りですね。こういうの」
小鞠「そだね。これで夏海がいてくれれば完璧なんだけど…」
れんげ「今度のお誕生日会でみんな揃うん!」
小鞠「ほら、お兄ちゃんもボーっとしてないでこっち手伝ってよ!」
卓「……」ハッ
れんげ「こまちゃん、なっつん喜んでくれるのんな…?」
小鞠「うん。れんげがここまで張り切ってくれてるんだもん、きっと喜ぶよ」
れんげ「///」フスーッ
卓「……」
その子は事故に遭ってから塞ぎがちになり、ウチもなんだか会うのが気まずくて、互いに疎遠になっていたけど
しばらくしてその子の家で誕生日会か何かの集まりがあり、顔を合わせる機会があった。
ウチはまたその友達と仲良くしたいと思っていたんだけど、車椅子に乗って現れたその姿にはやはり衝撃を受けてしまった。
彼女は事故の時に顔に大きな火傷を負って、髪も毛穴ごと焼け焦げて所々禿げあがってしまったそうだが
それでもその日はカツラを被せてもらい、火傷の上をファンデーションで隠そうとしたような痕跡があった。
ハグかなにかしたのだろう。彼女の顔を間近で見た記憶がある。
その時ウチは子供だったとはいえ無遠慮にも彼女の顔をじろじろと眺めてしまった。悪いことをしたと思う。
火傷の痕が醜いと思ったのではない。がさつで男勝りだったその子は、生まれて初めて母親に化粧をしてもらったはずだ。
ウチはその時初めて気が付いた。彼女がけっこうな美少女であったことに。火傷の痕だけが実に残念で、純粋に勿体ないと思い、ただ眺めてしまった。
その後、子供だましの出し物やらプレゼントやら料理が振る舞われ、彼女も笑顔を見せてはいたけど、途中で一人にしてほしいと隣の部屋に行ってしまった。
年上の友人たちは口々に「嬉し泣きを見られたくないんだ」とからかっていたけど、ウチは妙な胸騒ぎがして彼女を呼び止めた。
「すぐに戻るから」振り返った笑顔が、元気な頃のその子のままで言葉が詰まった。
その日、彼女は死んだ。
不自然な体勢で車椅子から落下して、首の骨が折れて畳の上に横たわっていた。
襖一枚隔てた向こうでウチらがはしゃぐ声を聴きながら、彼女は独り寂しく息を引き取ったのだ。
自ら命を絶ったんだと子供ながらに思った。今でもそう思っている。
彼女の母親は事故だと言い張った。この子はまだまだ生きたかったはずだと。そうであってほしいと願っている。
どちらにしろ、ウチら受け入れる側の人間は、受け入れられる側の人間の苦痛を理解しきれていなかったのだと思う。
その後、ウチは旭丘分校の最後の生徒として卒業を迎えた。
極端に子供の少ない地域で、四つ上の上級生が卒業してからは本当に生徒一人きりの学校生活だった。
卒業後、ウチは都会の高校の寮に入り、そのまま就職して実家にはあまり寄り付かなくなった。
旭丘分校は、来春取り壊されるらしい。
ひえっ
引用元: ・2ちゃんねるsc
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